エンド直 vs 二次請け:商流の深さが手取りに与える本当のインパクト
「商流の浅い案件は単価が高い」という業界の通説は、データで裏付けられる事実だ。だが、なぜ商流が深くなると単価が下がるのか、その経済的メカニズムを構造的に説明したコンテンツは少ない。本稿では、エンド→1次→2次→3次という商流階層を分解し、各層で発生するマージン抜き取りの実態、エンド直100%を実現するHiPro Techのような大企業系エージェントの構造、そしてフリーランスエンジニアが「自分の案件商流」を見極める実践的方法を、編集部の独自調査で明らかにする。
「商流」とは何か:IT業界の階層構造
「商流」とは、エンドクライアント(実際にシステムを使う発注元)から、現場で実装するエンジニアまでに介在する企業の階層構造を指す。IT業界では、この商流が3-5層に及ぶことが珍しくない。
典型的な商流階層の例
↓ ¥1,500,000/月で発注
1次請け(大手SIer) ─ ¥300,000を取って次へ
↓ ¥1,200,000/月で発注
2次請け(中堅システム会社) ─ ¥250,000を取って次へ
↓ ¥950,000/月で発注
3次請け(フリーランスエージェント) ─ ¥150,000を取って
↓ ¥800,000/月でエンジニア参画
この例では、エンドクライアントが¥1,500,000を支払っているのに、現場で実装するエンジニアの手取りは¥800,000。商流の途中で¥700,000、率にして47%が中間業者に抜かれている。これが業界で「中間搾取」と呼ばれる構造だ。
商流の階層別呼称
| 階層 | 業界での呼称 | 機能 |
|---|---|---|
| エンド直 | 直請け / プライム | クライアントと直接契約 |
| 1次請け | 1次 / Tier 1 | エンドから直接受注、再委託 |
| 2次請け | 2次 / 二重請負 | 1次から受注、再委託 |
| 3次以降 | 多重請負 / 偽装請負リスク | 法的にグレーゾーン |
商流の深さによる経済的インパクト
編集部が業界主要エージェントの公開データから集計した、商流別の平均単価(同等スキルのバックエンドエンジニア5年目を基準)を示す。
| 商流 | 平均単価 | 標準比 | 業界での該当例 |
|---|---|---|---|
| エンド直 | ¥920,000 | 100% | HiPro Tech、テクフリ上位案件 |
| 1次請け | ¥820,000 | 89% | 大手SIer経由案件 |
| 2次請け | ¥720,000 | 78% | SES中小経由案件 |
| 3次以降 | ¥600,000 | 65% | SES多重請負 |
商流が1階層深くなると、月¥10万、年間¥120万の差
上記データが示すのは、商流が1階層深くなるごとに、エンジニアの単価は約10%下落するという事実だ。これは月額¥10万、年間で¥120万の差になる。エンジニアの生涯年収を考えると、商流の浅い案件を選び続けることは数千万円規模の経済効果を持つ。
なぜ商流は深くなるのか
「商流が深い案件は単価が下がる」と分かっていても、業界全体では多重請負が常態化している。なぜか。3つの構造的理由がある。
理由1:大手SIerの「人月ビジネスモデル」
大手SIer(NEC、富士通、日立、NTTデータ、IBM等)の中核ビジネスは、エンドクライアントから大型システム案件を受注し、自社社員と協力会社の人月を組み合わせて納品する「人月ビジネス」だ。1件¥10億のシステム案件で、自社社員だけでなく数百名規模の外部エンジニアが必要になる。
そのため、大手SIerは常時、複数の協力会社(2次請け)とパートナー契約を結んでおり、案件が来たら配分する構造になっている。エンドクライアントは「大手SIerに発注しただけ」だが、実際の実装は2次・3次に流れる。
理由2:SES業界の「ベンチ持ちリスク」
SES企業(システムエンジニアリングサービス)は、エンジニアを正社員として雇用し、クライアントの現場に常駐させるビジネスモデルだ。エンジニアが無稼働状態(ベンチ)でも給与は支払う必要があるため、常に案件を持っていなければ経営が成立しない。
結果、自社で営業力のないSES中小企業は、大手SES・SIer経由で案件を確保せざるを得ず、自然と多重請負構造の下層に位置することになる。
理由3:偽装請負規制を避ける「契約形態の階層化」
労働者派遣法・職業安定法の規制により、「請負契約のエンジニアにクライアントが直接指示する」のは偽装請負として違法だ。しかし実態としては、現場で柔軟に指示を出したいケースは多い。そのため、契約上は請負契約だが、実態は派遣的な働き方になっている案件が業界に多数存在する。
この法的グレーゾーンを「契約形態の階層化」で吸収しているのが、多重請負構造の一面でもある。エンジニアにとっては不利だが、業界全体の利害調整として機能してきた構造だ。
エンド直特化エージェントの構造
商流の深さが構造的に単価を圧迫する以上、「エンド直案件にアクセスできるエージェント」を選ぶことは、フリーランスエンジニアの戦略上の重要な選択だ。本誌の15社比較で「エンド直率が高い」エージェントを抽出した。
| エージェント | エンド直率 | 構造的特徴 |
|---|---|---|
| HiPro Tech | 100% | パーソルキャリアの法人ネットワーク活用 |
| テクフリ | 90% | エンド直特化の営業体制 |
| TechHero | 85% | 新興・小規模でエンド直集中 |
| Findy Freelance | 70% | モダンWeb系スタートアップ直結 |
| Midworks | 70% | エンド + SIer直の混合 |
| レバテックフリーランス | 非公開(高め推定) | 業界最大規模で多様な商流 |
パーソル系HiPro Techが100%エンド直を実現する仕組み
HiPro Techは、パーソルキャリア株式会社(東証プライム上場)が運営するフリーランスエージェントだ。doda・dodaダイレクト等のキャリアエコシステムを通じて、長年にわたり大手企業との直接的な取引関係を構築している。
この法人クライアント基盤を活用することで、フリーランス案件もエンド直100%で提供できる。日本の主要企業のDX推進・基幹システム刷新案件に、中間業者を挟まず参画できるのは構造的な優位だ。
テクフリ90%のメカニズム
テクフリ(株式会社アイデンティティー)は、エンジニア向けエージェントとしての特化型営業で、エンド直案件比率90%を実現している。さらに「3ヶ月ごとの単価交渉制度」と組み合わせることで、エンド直の高単価を維持しつつ、継続的な値上げを実現する仕組みを持つ。
自分の案件商流を見極める実践的方法
フリーランスエンジニアが「自分の今の案件商流が何次なのか」を見極めるには、いくつかのチェックポイントがある。エージェントに直接聞くのは禁忌ではないが、聞きにくい場合は以下のサインで判断できる。
商流が深いサイン(2次以降の可能性)
- 契約書のクライアント名が知らない会社名 ─ エンドクライアントではなく、間に入る中間業者の名前
- 面談相手と日常の指示者が別人 ─ 面談ではエージェント担当、現場では知らない人が指示
- 請求書の宛先が3つ以上 ─ 「エンドA → 1次B → 2次C → 自分」の構造
- クライアント企業のオフィスに入れない ─ 別会社のオフィスで作業
- クライアントメールアドレスを発行されない ─ アクセス権限が制限される
- 「クライアントの直接担当者と話せない」と言われる ─ 間に複数の窓口
エンド直のサイン
- 契約書のクライアント名 = エンドクライアントの名前と一致
- クライアント企業のSlack・Teams・メールアカウントが発行される
- クライアント企業のオフィスに自由に出入りできる
- 面談相手と日常の指示者が同じ
- クライアント企業の経営層・部長クラスとも直接話す機会がある
エージェントへの質問テンプレート
- 「この案件のクライアントは、エンドクライアントですか?それとも中間企業ですか?」
- 「貴社とクライアントの間に他の業者は介在していますか?」
- 「クライアントメールアドレス(@クライアント.co.jp)は発行されますか?」
- 「クライアントオフィスへの常駐ですか、それとも他の場所での作業ですか?」
- 「契約書の発注元はどこになりますか?」
これらの質問にエージェント担当者が明確に答えられない、もしくは曖昧な返答をする場合、商流が深い案件の可能性が高い。透明性のあるエージェントは、これらの質問に即答できる。
エンド直案件を狙うキャリア戦略
エンド直案件にアクセスするには、エージェント選びだけでなく、エンジニア側のキャリア戦略も重要だ。本誌が分析した「エンド直案件にアクセスしやすいエンジニア特性」を示す。
エンド直案件に求められるスキル特性
- 自走力 ─ 細かい指示なしでタスクを推進できる
- コミュニケーション力 ─ クライアント経営層・事業部門と直接対話できる
- ドメイン知識 ─ 業界・ビジネスモデルへの理解
- 技術選定力 ─ 単に実装するだけでなく、技術選択の根拠を語れる
- マネジメント志向 ─ 自分以外のエンジニアと協働できる
エンド直アクセスのためのエージェント選び
| キャリアフェーズ | 推奨エージェント | 狙い |
|---|---|---|
| 経験5年未満 | レバテックFL + Midworks | 規模感ある中でエンド直案件にアクセス |
| 経験5-10年 | テクフリ + HiPro Tech | エンド直特化エージェント中心 |
| 10年+シニア | Tech Stock + TechHero | ハイクラス・透明性両立 |
| スタートアップ志向 | Findy Freelance + ITプロパートナーズ | モダンWeb系スタートアップ直結 |
並行登録による「商流の比較」
1社に依存せず複数エージェントに登録することで、同じスキルのエンジニアが異なる商流の案件にアクセスできるようになる。例えば、レバテックFLとHiPro Techに同時登録すれば、両社からの提案を商流で比較できる。同じクライアント企業でも、HiPro Tech経由ならエンド直、レバテックFL経由なら1次請けで来るケースが実際にある。
商流の浅さは、エンジニア人生の質を変える経済変数だ
本稿で示したように、商流が1階層深くなるごとに、エンジニアの単価は約10%下落する。これは月¥10万、年間¥120万、10年間で¥1,200万、エンジニア人生全体では数千万円規模の経済的影響を持つ。スキルアップによる単価向上と同等、もしくはそれ以上の効果が、商流を浅くすることで実現できる可能性がある。
重要なのは、「商流の浅さは交渉で実現するものではなく、エージェント選びで実現するもの」だということ。エンド直率100%のHiPro Tech、90%のテクフリ、85%のTechHeroのような特化型エージェントを並行登録することで、商流の浅い案件への構造的アクセスが手に入る。
マージン構造、単価相場、商流の3つは、フリーランスエンジニア経済の3大変数だ。次の第4稿「支払いサイトとキャッシュフロー」では、もう1つの隠れた変数を分解する。