CTO直接案件が増えている本当の理由 ─ 採用市場の変質と単価押し上げ効果
事業会社のCTO・VPoE採用市場が急成長する中、「CTOから直接フリーランスエンジニアに発注される案件」が業界で急増している。これはエージェント経由の従来案件とは構造が根本的に異なる新しい市場だ。本稿では、CTO直接案件市場の構造変化、エンジニア単価への押し上げ効果、業務委託CTO・パートタイムCTOという新しい働き方、そしてフリーランスがこの市場にアクセスする実践戦略を、独立系メディアの視点で構造分析する。
なぜCTO直接案件が増えているのか
従来、フリーランスエンジニアは「エージェント経由で案件を獲得する」のが標準だった。だが2020年代後半、事業会社のCTO・VPoEが直接フリーランスエンジニアに発注するケースが急増している。これは前稿「事業会社の内製化加速」で示した構造変化の必然的な結果だ。
CTO直接案件が増える3つの構造要因
- 事業会社のCTO・VPoE採用拡大:意思決定者が増える=直接発注の窓口が増える
- エンジニア間ネットワークの拡大:勉強会・カンファレンス・SNS経由のリレーション増加
- テックブログ・OSSの可視化:エンジニアの発信が、CTO層の目に届く構造に
CTO直接案件の市場規模
| 年 | CTO直接案件 (推定) | エージェント経由案件 (推定) | CTO直接比率 |
|---|---|---|---|
| 2020年 | 約12,000件 | 約180,000件 | 6.3% |
| 2022年 | 約24,000件 | 約200,000件 | 10.7% |
| 2024年 | 約42,000件 | 約220,000件 | 16.0% |
| 2025年 | 約58,000件 | 約230,000件 | 20.1% |
CTO直接案件は5年で約4.8倍に拡大。エージェント経由案件も増えているが、CTO直接案件の方が圧倒的に成長率が高い。
CTO直接案件の単価押し上げ効果
CTO直接案件の最大の経済的特徴は、エージェント経由案件と比べて単価が15-30%高いこと。エージェントマージン20-30%が発生しないため、その分がエンジニアの手取りに直接還元される。
| 案件種類 | クライアント支払い | エンジニア手取り | 差額 |
|---|---|---|---|
| エージェント経由 (マージン25%) | ¥1,000,000 | ¥750,000 | 基準 |
| CTO直接 (中間業者ゼロ) | ¥950,000 | ¥950,000 | +¥200,000 |
CTO直接案件はクライアント支払い額が¥50,000下がっているケースでも、エンジニア手取りは¥200,000増えるという経済構造。「双方にとって経済的にWin-Win」という関係が成立する。
パートタイムCTO・業務委託CTOという新しい働き方
CTO直接案件の中でも、特に注目すべきは「パートタイムCTO」「業務委託CTO」という働き方だ。複数のスタートアップ・中小企業に並行してCTOとして参画し、それぞれから報酬を得るモデル。
・スタートアップA社(CTO、週20時間):月¥80万 + SO 0.3%
・スタートアップB社(技術顧問、週8時間):月¥40万 + SO 0.1%
・中堅企業C社(技術アドバイザー、月2回):月¥30万
合計:月¥150万 + SO付与、週稼働40時間程度
パートタイムCTOが成立する経済的背景
シードからシリーズA期のスタートアップは、本物のCTOを正社員で採用する予算がない(年収¥1,500万+SO付与は重い)。一方、技術判断の品質を高めたいニーズはある。「複数企業に分散してパートタイムCTOを雇う」のは、双方にとって経済合理的だ。
CTO直接案件にアクセスする実践戦略
CTO直接案件は経済合理性が高いが、エージェント経由案件と異なり、自分から取りに行く動きが必要だ。本誌が業界関係者の取材で整理した、CTO直接案件へのアクセス方法を示す。
方法1:テックブログ・OSS・登壇による可視化
CTO層は、優秀なエンジニアを探すために、テックブログ・OSS・カンファレンス登壇を継続的にチェックしている。自分の技術力と人柄を可視化しておくことが、CTO直接案件への入り口になる。
- 技術ブログ(Zenn、Qiita、自社ブログ)の定期更新
- OSS活動(GitHub上でのコミット履歴)
- 勉強会・カンファレンス登壇(オンライン・オフライン)
- X(旧Twitter)での技術発信
方法2:エンジニア間ネットワークの構築
CTOからの直接発注は、多くの場合「知人経由の紹介」で発生する。技術コミュニティへの能動的参加が、ネットワーク資本を築く方法だ。
- 言語・技術別の勉強会(Go Conference、JS Conf等)
- CTO向けコミュニティ(CTO of the Year、TechCrunch Schoolなど)
- スタートアップ向けピッチイベント・カンファレンス
方法3:エンド直特化エージェントの活用
すべてを直接取りに行くのは時間コストが高い。エンド直特化型エージェントを補完的に活用するのが現実的だ。本誌の15社比較から、CTO直接案件アクセスに強いエージェントを抽出。
| エージェント | 強み |
|---|---|
| Findy Freelance | スタートアップCTO直結、モダンWeb系 |
| HiPro Tech | 大企業DX組織CTOへのアクセス |
| ITプロパートナーズ | 副業・パートタイム参画に強い |
CTO直接案件は、エンジニアの「個」が評価される新しい市場
CTO直接案件市場の急成長は、事業会社の内製化加速 × エンジニア個人の発信力向上という2つの構造変化が交差して生まれた現象だ。エージェントを経由しないことで、エンジニア手取りは15-30%増加し、技術裁量も大きく拡大する。
ただし、この市場にアクセスするには、エージェント経由とは異なる「自分発信型のキャリア構築」が求められる。テックブログ、OSS、登壇、コミュニティ参加——これらは「目に見えるキャリア資産」として、長期的に効いてくる投資だ。
次稿「メガベンチャー・SaaSのフリーランス活用戦略」では、CTO直接案件の発注側の戦略を、メガベンチャー・SaaS企業の視点から深堀りする。